居住用財産を譲渡した場合の税制上の特典について-その2
今回も前回に引き続き、居住用財産を譲渡した場合の特例についてご紹介させていただきます。前回の投稿につきましては、以下をご参照ください。
なお、今回ご紹介する特例は、現行法上、令和3年12月31日までに行われた譲渡に関して適用される規定となります。
4.特定の居住用財産の買換え特例
居住用財産を譲渡しただけでなく、新たに居住用財産を取得した場合に適用できる特例となります。譲渡益が生じた場合であってもその全額または一定額を限度として課税されません。
本特例は、譲渡資産、買換資産について以下に掲げる要件が付されています。譲渡資産に関する要件は、居住用財産を譲渡した場合の特別控除(3,000万円控除)にはなかった要件となります。
譲渡資産の要件
- 譲渡日の属する年の1月1日における所有期間が10年超であること
- 居住の用に供している期間が10年以上であること
- 譲渡対価の額が1億円以下であること 等
買換資産の要件
- 家屋(居住用部分に限ります)の床面積が50㎡以上、敷地面積が500㎡以下であること
- 譲渡日の属する年の前年1月1日から譲渡日の属する年の翌年12月31日までに取得をし、かつ、当該取得日の属する年の翌年12月31日までの間に居住の用に供する(見込みである)こと 等
本特例の適用を受ける場合の課税関係は以下のとおりです。
譲渡対価の額≦買換資産の取得価額の場合
資産の譲渡はなかったものとされます。つまり、譲渡益が発生していたとしてもこの段階では課税されません。
譲渡対価>買換資産の取得価額の場合
買換資産の取得価額を超える金額に対応する部分のみ譲渡があったものとされます。仮に、譲渡対価の額が8,000万円、譲渡資産の取得費・譲渡費用の額が3,000万円、買換資産の取得価額が6,000万円であった場合、以下のように計算されます。
譲渡益として認識する金額:
2,000万円(注)△{3,000万円×2,000万円(注)/8,000万円}=1,250万円
(注)譲渡対価のうち買換資産の取得価額を超える金額:8,000万円△6,000万円=2,000万円
つまり、全体の譲渡益5,000万円のうち、買換資産の取得価額以下の金額に対応する部分(6,000万円△{3,000万円×6,000万円/8,000万円}=3,750万円)については譲渡がなかったものとされ、この段階では課税されません。あくまで買換資産の取得価額を超える金額に対応する部分のみ譲渡が認識されます。
本特例は、居住用財産を譲渡した場合の特別控除(3,000万円控除)とは選択適用となりますので、いずれの要件も満たす場合にはどちらを選択するか検討する必要があります。
本特例の適用を受ける場合、軽減税率の特例(譲渡所得のうち6,000万円以下の金額について所得税等10.21%、住民税4%が適用されるもの)の適用を受けることはできず、所得税等15.315%、住民税5%による原則的課税がなされます。また、本特例の適用により譲渡がなかったとされる部分については、買換資産の取得費は譲渡資産の取得費を引き継ぐこととされ、将来、当該買換資産を譲渡することとなった際に、本特例の適用により実現しなかった譲渡益が実現することとなります。
選択適用に際してはこれらを総合勘案する必要がありますが、一般的には、譲渡益が3,000万円以下の場合は居住用財産を譲渡した場合の特別控除(3,000万円控除)を選択し、譲渡益が3,000万円を超える場合は状況に応じて判断するといった対応になろうかと思われます。
居住用財産の譲渡により譲渡損が生じた場合の特例
土地建物等の譲渡により譲渡損が生じた場合、原則として、他の事業所得や給与所得等との損益通算はできませんが、所定の要件を満たす居住用財産の譲渡により生じた譲渡損については、損益通算および3年間の譲渡損失の繰越控除が適用できます。譲渡益が生じた場合には、何となく確定申告しなければならないかな?という発想が生まれますが、譲渡損の場合は失念しやすいところとなりますので、注意が必要です。
1.居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算および繰越控除
本特例は、居住用財産を買換えた際に譲渡損が生じたケースとなります。譲渡資産、買換資産の主な要件は以下のとおりです。
譲渡資産の要件
譲渡日の属する年の1月1日における所有期間が5年を超えること
買換資産の要件
- 家屋(居住用部分に限ります)の床面積が50㎡以上であること
- 譲渡日の属する年の前年1月1日から譲渡日の属する年の翌年12月31日までに取得をし、かつ、当該取得日の属する年の翌年12月31日までの間に居住の用に供する(見込みである)こと
- 取得日の属する年の12月31日において、買換資産に係る住宅借入金等(償還期間が10年以上であるもの。)があること 等
損益通算してもなお通算しきれなかった損失の金額がある場合には、3年間の譲渡損失の繰越控除が認められますが、繰越控除を行う年において、①12月31日現在買換資産に係る住宅借入金等(償還期間が10年以上であるもの。)があること、②その年の合計所得金額が3,000万円以下であること、の要件を満たす必要があります。
買換資産に係る住宅借入金等については、住宅ローン控除の併用が可能です。
2.特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除
本特例は、住宅ローン完済前の居住用財産を譲渡した際に譲渡損が生じたケースとなります。①譲渡日の属する年の1月1日において所有期間が5年を超える居住用財産であること、②譲渡契約締結日の前日に譲渡資産に係る住宅借入金等があることが主な要件とされます。
損益通算の対象とされる金額は譲渡損の金額ではなく、譲渡損の金額のうち、住宅借入金等の残高から譲渡対価を控除した金額が限度とされます。譲渡損が発生したとしても、譲渡対価の額で住宅ローンの返済を賄える場合には、この特例を適用することはできません。
本特例も3年間の譲渡損失の繰越控除が認められますが、繰越控除を行う年において、合計所得金額が3,000万円以下であることが要件とされます。